ラブストーリーは意図的に
つまらねー日常。
暇つぶしもつまらなくなってきた中で。
やってきたのは優しい音と強烈な刺激。
「やあ、芭唐君いらっしゃい。
また来たのかい。」
行きつけのホテルのバー。
ここの支配人はオヤジの部下のわりには話せるヤツで、未成年のオレにも(制限つきだが)酒を出してくれる。
マスターも気さくなヤツで、かなり話しやすい。
未成年飲酒を見逃してくれるかわりに支払いはちゃんとやってるがな。
いつもの酒を頼むと、聞きなれない音が耳に入る。
「ピアノ…?」
「ああ、最近来た子がね。
弾けるっていうから少し弾いてもらってるんだ。
思ったより評判がいいんで時々弾いてもらってるんだよ。
…いい音だろう?」
「…だな。」
素人でピアノなんぞにまったく興味のないオレでも心惹かれるっつーか、良い気分になる。
ピアノの音も良いんだろうが…こいつ、すげえわ。
今いるところからだと丁度植木(観葉植物と言ってくれ)に隠れて弾いてるやつの顔が見えねえ。
「っていうかここピアノなんか置いてたっけ?」
「あんまり誰も気づいていなかったけど、片隅にね。
ほこりかぶってたし音もよくなかったけど今弾いてる彼が調弦してくれたんだ。」
「へえ…。」
彼っつーと男か。
女で若かったらナンパしてもいーかもとか思ったけどな。
でも少し興味がある。
そんな風に思ってたらピアノの音が途切れる。
「終わり?」
「ああ、そういえば休憩の時間だね。」
もう少し聴きたかったけど、まあいっか。
それよりどんなヤツか見たい。
そう思った。
すると、弾いていたらしいヤツがこちらに向かってくる。
身長はまあ普通で。すっきりした体格。
分厚めのフレームの眼鏡をしていて、顔ははっきりわからないが、整っている方だ。
ここの制服を着ているが、すこし乱しているので仄かに艶気がある。
そんな風に見ていると、すぐ傍までやってきた。
ああ、マスターに用事があるんだなと思って視線を元に戻すと。
頭にかるく衝撃を感じる。
「な?!」
振り向くとさっきの男。
持っていた楽譜でオレの頭をかるくはたいたようだ。
「何だよ?テメー・・・」
「よっ風船小僧。」
にっと笑って眼鏡をはずした。
そこには。
最近会った覚えのある顔。
「お前、十二支の猿?!」
そこまで言ってばこっと再度あたまをどつかれる。
「猿野天国だっつーの。」
「こらこら、天国くん。
芭唐君は大事なお客様なんだからね。」
「あ、すみませんマスター。」
「って、オレに謝れよ…。」
そう睨むと、猿野はくすくすと笑いながらまたオレの方を向く。
「悪い。けどオメーもやっぱ不良だな。
ここは未成年お断りだぞ?」
「そういうテメーはどうなんだよ!」
「あ、オレはいいの。
叔母さんのお供だし。」
「はあ?!」
「オレの叔母さんマスターの婚約者なんだよん。ねー?」
「そ。彼はこれから僕のかわいい甥になる予定なんだ。」
にっこり笑うマスター。
この人さっきからオレと猿野が知り合いだってことに驚いてないな。
ってことは。
「…マスター。オレがここに来る事をこいつに話したのあんたでしょ?」
「ああ、ばれた?
いやー。二人とも随分個性的だから良い友達になるかなと思って話したら
知り合いだって言うし。
まさか芭唐君が有望な高校球児だなんて思わなかったけど。
まあ、悪くはないだろう?」